

91話 子どもへの負担は少ないほうがいい
子どもの歯列に凸凹があっても、すぐに治療しない場合があります。 上下顎の関係に問題のない場合であって(反対咬合や上顎前突ではない)、 ①混合歯列の時点で著しい凸凹を有し、多少のスペース確保を施したとしても 意味をなさないような状況のとき。 ②混合歯列期時点での予測で、将来の永久歯の矯正治療の時、明らかに抜歯が濃厚な場合。 つまり、いかなる前処置をしても、どうやっても抜歯が回避できないような場合には、積極的な治療をせずに、永久歯の生えるまで定期的に観察します。そして予定通りに凸凹にしてから、一気に治療をします。ただし凸凹ゆえに、その時点で歯に不良な接触があり負担過重を起こしているような場合は、該当する歯を少しだけ移動させて、咬合の安静をはかることはあります。 これらの判断は矯正歯科医師によるものです。勝手な判断は禁物です。 実際の症例を示します。 【矯正相談】 8才、男子、矯正相談のため当医院を受診しました。 歯列の凸凹はあるものの、咬んだ時に不良な接触はなく顎運動は良好でした。 定期的に観察することにします。(相談時の写真なし) 【観察1】 9


90話 急速拡大装置という病
「不正咬合の解決は、その原因にアプローチすることでなされる」 しかしながら、不正咬合の種類に関係なく全ての症例に対し、急速拡大装置を使用する歯科医師がいます。彼らの説明用パンフレットやホームページには、急速拡大装置で上顎を拡大にすることによる独自の考えがうたわれており、装置の使用が大前提になっています。検査・診断をする前から急速拡大装置の使用が決まっているのです。不正咬合の原因を考えた結果の処方ではないことは、このことからも明らかです。
原因にアプローチするためには、まず資料を採り分析する。その結果として問題点が判明し、そこを改善すべく必要な装置が処方されるのが普通です。装置は最後に決まるものであり、原因によっては装置の種類も違うはずです。 最初から急速拡大装置ありきの治療が、いかにトンチンカンかお分かりいただけただろうか。ただ、彼らなりの拡大の理由はある。「今の子どもは顎が発達していない」と言うのです。これも根拠のない話で、この点については 85話 顎が発達しない? を参照してください。 以下に、反対咬合症例を6例示します。 同じカテゴリーと


89話 歯の移動には設計図がいる
歯列の凸凹と反対咬合をあわせもつ症例です。 さっそく治療しましょう。 【初診】 16才 女性 前歯部は反対咬合です。 歯列の凸凹の程度は上顎で多く、下顎では少ない。 左右の臼歯関係も反対咬合の傾向を示すが、臼歯部の狭さは見あたらない。 診断では単に現在の問題点を求めるだけではなく、治療の進め方、歯並びの完成、予後を含めたところまで考えます。マルチブラケット治療を始める前には、フォースシステムを設定します。 フォースシステムとは、いわゆる力の設計図です。治療のスタートからゴールまでを細分して、それぞれの段階で使用するワイヤーの素材、サイズ、曲げ方(角度・ねじれ・段差など)、ゴム、固定装置などを細かく設定し図面におこします。 本症例は前歯部が反対咬合なので、下顎の前歯を後退させる過程で顎間ゴム(参照 7話 矯正用の小さなゴム)の使用を想定しています。顎間ゴムの反作用を打ち消すため、あらかじめワイヤーの曲げ方に工夫を施し、ゴムの作用が効果的に発揮できるようなシステムにしておくなど、あらかじめ考えておきます。 【治療後】 治療期間 20ヶ月 きれいな歯並


88話 歯を抜いた隙間はどう利用するのか
矯正治療の時、個々の歯があっちに行ったり、こっちに来たりと好き勝手に動いたのでは治る歯並びも治りません。そこで、移動してほしい歯と移動してほしくない歯を決めて、それぞれを制御する必要があります。いま、前者を移動部、後者を固定部と呼んでおきます。 ここで例え話をひとつ。 公園の池に浮かぶ手漕ぎボートを想像してほしい。水の流れは無く、無風です。 ボートAとボートBは一定の距離をおいて離れており、それぞれ一人乗っている。 この両者に綱引きをしてもらう(オールは持っていない)。 湖上の綱引。 両者は等しく移動し接近するはずです。AとB双方が移動部ということです。 次に、ボートAは錨(Anchor、アンカー)を下ろします。 綱引き開始。 今度はボートAはその場を動かず、ボートBが移動してAに接近しました。 この時ボートAは固定部、ボートBは移動部となりました。 話を戻します。 矯正治療ではこの固定部と移動部の区別が重要な意味を持ちます。 固定部は固定源と言い換えてもいいでしょう。 【初診】 12才 男性 通常は固定源を臼歯に求めます。 本症例初診時の上の大