

79話 簡単に治る方法はありますか?
不正咬合の原因は、ひとつではない。種々の要素が複雑に絡み合って生じていると考えた方がいい。 まず骨格だ。上顎と下顎の関係だけでも最低次の三つを考える。 前後的関係、垂直的関係、水平的関係。 そして歯。歯列の凸凹の有無、量は当然のこと、個々の歯の状態はどうなっているのか。例えば、形態異常、先天欠如、過剰歯、埋伏歯、むし歯、補綴物などだ。 顔の外観もまた治療上重要な情報である。その他、習癖、口腔周囲筋群、嚥下、呼吸様式などは、ときに治療を難しくすることがある。
さて、以下の症例について、いっしょに考えてみよう。 (臨床では口の中だけで判断しない。きちんと検査資料を分析する必要がある) 【初診】 17才 男性 ①歯列の凸凹の程度はどうだろうか。 ②上下顎の前後的関係はどうだろうか。 ③垂直的関係はどうだろうか。 ①歯列の凸凹の程度はどうだろうかー中程度の凸凹がある。 ②上下顎の前後的関係はどうだろうか-上顎前突の傾向がある。 ③垂直的関係はどうだろうか-深い。下顎の前歯が見えない。 (臨床では上記項目は全て数値化して評価する) 検査資料を分析し診断をす


78話 抜くか抜かないかの話2
口の中だけで判断していけないのは、重々承知の上であえて質問します。 次に示す二つの症例のうち、症例Aは歯列に凸凹があり、症例Bにはありません。 どちらかが抜歯症例で、どちらかが非抜歯症例です。 あなたは、どっちがどっちだと思いますか。 症例A 症例B 歯列に凸凹があると抜歯で、凸凹がないと非抜歯でしょうか 次に、ふたつの症例の横顔を示します。 図は初診時の頭部エックス線規格写真にトレーシングペーパーを貼り、顔の外形を写し取ったものです。 症例A 症例B 前歯付近に点線があります。この点線は、一定のルールに従い作図し求められるもので、ここでは基準線と呼ぶことにします。この基準線に対する下顎の前歯の距離は以下の通りです。 症例A 前方 8㎜ 症例B 前方17㎜ 私が利用している日本人のデータの平均値は、基準線の前方約8㎜。つまり、症例Aの前歯の位置はこのままで良いことがわかります。言い換えればこの位置を大きく変えないように治療しなければなりません。一方、症例Bは、かなり口元が突出しており、治療に際しては9㎜後ろに下げた方が理想的であると解釈します。


77話 正しい診断ができない理由
犬歯が飛び出ているとうい点で、八重歯の症例に見えます。 でも、普通の八重歯とはチョット違う感じもします。 みなさんは、どう考えるでしょうか。 正面と横からの画像を見てみましょう。 【初診】 私が違和感をおぼえたのは、犬歯の角度と位置です。 通常の八重歯は、あくまでも犬歯相当部の上方に位置しています。 本症例の犬歯は、歯冠が1番と2番の間に位置していること、 そして歯根は1番の方向に斜めにある様に見えます。 ※用語 歯 冠(しかん) :歯の頭 歯 根(しこん) :歯の根 中切歯(ちゅうせっし):1番目の上顎前歯、略称は1番 側切歯(そくせっし) :2番目の上顎前歯、略称は2番 【途中経過】 残っていた乳犬歯を抜歯して、そこに向かって移動を開始します。 歯冠はある程度移動したものの、歯根の移動は少なく、歯槽骨が薄くなり歯肉の状態も良くありません。これ以上の移動を断念しました。 そこで、側切歯を横に移動させ、犬歯を下ろすことにしました。 犬歯の歯根の方向を考えると、この方が自然な位置どりです。 【治療後】 術者が症例に向き合うとき、その症例のお


76話 歯並びを治そう
顔は知っているけど名前が出てこない。なんてことがあります。 例えば、私の場合。 痩せていて、眼鏡をかけている、髪の毛は薄い、顎ひげがあった。という具合に、その人の顔の特徴をとらえることは出来ます。しかし名前となると、急に頼りなくなる。加藤だったか、古藤だったか。 顔には人それぞれの特徴があるので、記憶に残りやすいのでしょう。 口元も特徴の現れやすい場所、治せるものなら治した方が良い。 【初診】 13才 女性 いくつかの検査資料がありますが、最も重要なのが頭部エックス線規格写真です。 レントゲン写真はただの白黒の画像です。それを読み解く能力が術者に備わっている必要があります。抜歯・非抜歯の判定、歯の移動方向の把握、骨格の状態、その他、頭部エックス線規格写真には治療上必要な情報が沢山詰まっています。 本症例は抜歯の必要があり、マルチブラケット装置で治療を開始しました。 【治療後】 最近は、テレビなど人前に露出する機会の多い人に、歯並びが悪い人をあまり見かけなくなりました。優秀なアスリートもまた、きれいな歯並びをしています。しかし、歯並びを治すのは、彼


75話 成人 反対咬合症例
あきらめる必要はありません。 成長期を過ぎた反対咬合であっても、矯正治療が可能なことも多くあります。 外科矯正になるのか、矯正治療が可能なのかは診れば分かります。 ご相談ください。 【初診】 19才 男性 顔の状態は示しませんが、反対咬合の特徴をもっています。 検査資料を分析して、精確な診断をたてます。 下顎の第一小臼歯の抜歯が必要です。 マルチブラケット装置で治療を開始します。 【治療後】 治療期間 24ヶ月 撮影のため装置を外していますが、当面の期間は保定装置をはめています。 上下顎のズレの程度が著しい場合は、外科矯正が必要になることもあります。 私がかつて大学病院に勤務していた頃、外科矯正を数例担当しました。 外科矯正は顎を外科的に移動させるので、顔貌の改善は顕著です。 必要があれば外科矯正も選択肢の一つと考えて良いでしょう。 その場合は大学に紹介します。 【治療前後の比較】 わかりやすいように、上下の犬歯にマークを入れました。 初診時 治療後 下顎前歯が後退したことで、口元が自然な形になりました。 治療には、それ相応のテクニックが必要です