

71話 装置と歯並び
私が矯正治療について考えるときは、歯と顎を分けて考えます。 例えば、成人で歯列に凸凹がある症例といっても、以下に示すように上下顎の関係性は様々です。 ①上下顎の前後関係が上顎前突傾向のもの ②上下顎の前後関係が反対咬合傾向のもの ③上下顎の前後関係が正常なもの ③上下顎が共に突出しているもの ④上下顎の垂直的関係が接近しているもの ⑤上下顎の垂直的関係が離れているもの ⑥その他 ざっと考えてもこれだけあります。 当然のことながら、治療方法はそれぞれ変える必要があります。 単に歯列の凸凹を解消するのみならず、上下顎の関係、顎顔面全体への配慮が求められます。実際の臨床では口腔周囲筋、習癖、補綴物その他いろいろな条件があり、治療を複雑にします。 【初診】 18才 女性 検査資料を分析した結果、骨格的な問題はありませんでした。上記③に相当します。 一方、凸凹の程度は著しく、抜歯分析は抜歯判定となりました。 本症例をみて顎が狭いという人がいるかもしれません。 ちまたでは、顎が狭いと理由を付けて(実際には狭くない)、矯正治療に勧誘する歯科医師がいたり、狭くな


70話 矯正の価値は装置ではない、結果です。
これから矯正治療をはじめようと考えている人が、装置に関心をもつことはわかります。目立たないとか、取り外しだとか、魅力的な言葉に惹かれるのが人情です。 その心理をうまく利用して経営戦略する歯科医院があるので、仕方のないことではあります。 しかし重要なのは、何を使うかよりどう治るか、ちゃんと治るかではないでしょうか。ご自分の症状が、どう治るのかがイメージできるような情報こそ大切です。 また、治療に要する期間が曖昧では困ります。しっかり確認して下さい。 私の施術は以下のとおりです(永久歯列期の本格矯正の場合)。 矯正装置はマルチブラケット装置です。 審美ブラケットを表側に付けるワイヤー矯正と言った方がわかりやすいでしょうか。 治療期間は抜歯・非抜歯にかかわらず18ヶ月から24ヶ月(ごく稀に超えることあり)。 ひと月に一度の受診(治療内容によって二度のことあり)
治療例は様々なケースに対応できるようにブログに多数掲載しています。 ブログは矯正治療の技術解説書ではないので、専門的なテクニックの説明はありません。例えばブラケットポジション、ワイヤーの曲げ方


69話 歯科医師選び
歯科医師にもいろんな先生がいます。 私のように矯正治療が得意な人もいれば、そうでない先生もいます。 従って、同じ症例であっても、担当医の考え方ひとつで治療方法が異なることがあります。このことは歯並び・咬み合わせの相談をどこでするかによって、ご自分の未来が変わってしまうことを意味しています。 【初診時】 本症例を例題として、症例のとらえ方の違いを考えてみましょう。 ・前歯が一本飛び出している症例。 はたして、そうでしょうか。違う見方はありませんか。 ・一本を除いて、前歯がたおれている症例。 見方が、逆転しています。 ・顎が狭いので凸凹がある症例。 こう考える先生もいることでしょう。 ・前歯の異所萌出 抜いて、人工物で補うか。 頭部エックス線規格写真をきちんと分析します。診断とは、検査資料を読み解き問題点を抽出することです。本症例は咬み合わせの深い上顎前突症例です。通法に従って矯正治療をします。 【治療後】 動的治療期間 19ヶ月 咬み合わせの深さの違いが分かりますか。ピカピカの天然歯、自分の歯、きれいです。 【術前術後の比較】 本症例は私が矯正治療


68話 口元を引っ込めたい
矯正治療をする動機は、人によって様々です。八重歯を治したい。出っ歯だ。凸凹が気になる等いろいろです。人によっては口元を引っ込めたいといった要望もあります。 【初診時】 17才 女性 それ程、歯列の凸凹はありません。 頭部エックス線規格写真など、総合的に判断すると上下顎前突症例です。 セファロ分析では、下顎前歯が平均値に比べて前方6㎜に位置していました。上顎前歯を含めて全体として口元の突出感があります。抜歯分析は抜歯判定です。 【治療後】 動的治療期間 23ヶ月 歯を抜いたスペースを利用して、上下顎前歯を後退しました。 初診と治療後の頭部エックス線規格写真を比較します。 重ね合わせ図を製作することで、歯や顎の移動の様子が見てとれます。 【頭部X線規格写真】 初診 治療後 【重ね合わせ図】 実線:初診 点線:治療後 下顎前歯は後退し平均値の位置にのりました。上顎前歯もそれに追従して後退させた結果、唇もさがりました。初診時のオトガイ部(下顎の先)の皮膚は緊張し薄く張り詰めていましたが、丸みを帯び自然な感じになり、結果として横顔がきれいになりました。


67話 乳歯列期の反対咬合が観察でよい理由
「乳歯列期の反対咬合が観察でよい理由」 最初に結論を述べます。 それは「後でも治るから」です。 実際の症例で検証してみましょう。 【乳歯列期】 本症例は、乳歯列後期または混合歯列前期と言った方が正確かもしれません。 6才 女子 矯正相談のため来院、この時すでに反対咬合の程度はつよいですが、下顎の永久前歯が2本生えたばかりで、6才臼歯はまだ生えていません。 当面、定期的に観察することにしました。 6才の時の口腔内写真。 反対咬合です。 上顎は全て乳歯 下顎は永久前歯が2本生えた。 半年ごとに観察していきます。 【混合歯列期】 8才。 6才臼歯が生えそろいました。治療をはじめるにあたり、頭部X線規格写真などの資料を採ります。 検査資料を分析、診断、治療方針をたてます。 第一段階:顎の成長のコントロールによる反対咬合の改善 観 察:永久歯交換の誘導 第二段階:機能的咬合の確立 保 定:配列後の観察 【反対咬合の改善】 私は反対咬合の改善するとき、いつも3カ月以内の改善を目標にしていますが、 本症例では約12カ月を要しました。ともあれ、第一段階の目的