

10話 矯正相談
成人女性、前歯が出ていることを気にして来院しました。 当医院では、まず「矯正相談 」を行います。ご本人のお話しを伺い実際の状態をみます。現在の問題点を抽出し、いくつかの選択肢を提示します。矯正相談だけで治療しない人もいます。 成長期の子供の場合、すぐ治療の必要がないときは、観察していくと良いでしょう。 矯正相談のあと同意を得られた方は、後日、検査をします。 その時の口腔内写真です。特徴は、出っ歯の感じ、犬歯の位置不正、もう一つ下顎の歯の本数が少ないのに気づきましたか。犬歯と犬歯の間に、前歯が2本しかありません。普通は4本ですが、先天的に欠損していました。 診断の結果、上顎第一小臼歯の抜歯、マルチブラケット治療を開始しました。 マルチブラケット装置を外した時の口腔内写真です。 当医院でのマルチブラケット治療の治療期間はおよそ1年半です。その間、装置は付けますが、目的は美しく健康な歯並び咬み合わせをつくることです。装置を付けるのが嫌では、治るものも治りません。出っ歯、犬歯の位置不正は解消されました。下顎の前歯欠損に応じた咬み合わせをつくることで、審美


9話 スペースの有効利用
上下顎前突(じょうげがくぜんとつ)、聞きなれない言葉ですね。 簡単に言えば、上下の前歯が平均的な角度よりも急傾斜している状態。 横顔の外観は、口元がもっこり突出した感じです。唇が閉じずらいこともあります。 今回の症例は、 その上下顎前突です。 顔の写真は載せませんが、口元もっこりで口唇閉鎖(こうしんへいさ)が困難でした。 無理に唇を閉じると、下顎の先(オトガイ)の皮膚が引っ張られてシワができます。 診断の結果、上下の第一小臼歯の抜歯が必要となりました。抜歯したあとには隙間ができます。 この抜歯スペースを最大限利用し、前歯を後退します。 「スペースを最大限に利用し前歯を後退する」とはどういうことか。例をあげて解説します。 さあ、今日は運動会です。前歯組と奥歯組の綱引きをはじめます。 ①第一小臼歯を抜いた隙間があります、平均8mm。 ②その隙間を挟んで前方には前歯組が、後方には奥歯組が陣取ります。 ③綱引き開始。よーいドン。 本症例は、「スペースを最大限に利用し前歯を後退したい」のです。奥歯組が動かないように頑張って、前歯組を隙間に向かって引き込みた


8話 治療後のイメージを考える
様々な不正咬合があります。骨格そのものが小さかったり、大きかったり。 歯の凸凹の量が少なかったり、多かったり。 横顔の外観上、口元が出てたり、引っこんでいたり。 咬み合わせが浅かったり、深かったり。 舌癖(ぜつへき)があったり、なかったり。 顔面周囲の筋力が強かったり、弱かったり。 種々の条件を考慮し診断、治療方針をたてます。 今回の症例は、歯の「凸凹が多く」、「咬み合わせが深い」タイプの不正咬合です。 診断の結果、第一小臼歯の抜歯が必要と判定、マルチブラケット治療を開始しました。 治療期間は1年10カ月、装置を外したところです。 毎回、治療の都度、仕上がりのイメージを考えながら針金(ワイヤー)の調整をします。深いかみ合わせ症例の治療後のイメージは、浅く仕上げることです。それ相応のテクニックがあります。理論と熟練が必要です。 深かった咬み合わせは改善されました。歯の凸凹もなくなりました。治療前に比べ咀嚼効率が良くなり、機能性が向上しました。そして何よりも美しくなりました。 見た目の印象が良くなり、表情も明るくなりました。矯正治療には大きな可能性が


7話 矯正用の小さなゴム
矯正治療をするうえで「歯を抜く」ことがある。というのをご存知でしょうか。 レントゲン分析、模型分析、抜歯分析などのを考慮して抜歯・非抜歯の診断をします。 抜歯・非抜歯の判定で明らかに抜歯、明らかに非抜歯というものと、ボーダーラインに あるものがあります。 わたしはボーダーラインの場合、非抜歯を選択します。 いっぽう、明らかに抜歯のものを非抜歯で治療することはありません。 なぜなら不正咬合は「バランスを欠いた状態」。抜歯をすることでバランスをととのえる必要があります。もし、抜歯をしないで無理やり非抜歯で治療したとします。もっとバランスが悪くなって、治療は成り立ちません。 今日の症例 成人、上顎の前突感を気にして来院されました。 診断の結果、非抜歯と判定、マルチブラケット治療をはじめました。 初診時の状態 マルチブラケット治療の期間は1年8ヶ月、保定に移行しました。 歯や顎を動かす力のことを「矯正力」と言います。 マルチブラケット治療の矯正力の主力は針金(ワイヤー)の弾性力です。 また必要に応じて、小さな矯正用の輪ゴム(直径5mmほど)を使用します。