急速拡大装置という病

「不正咬合の解決は、その原因にアプローチすることでなされる」

しかしながら、不正咬合の種類に関係なく全ての症例に対し、急速拡大装置を使用する歯科医師がいます。彼らの説明用パンフレットやホームページには、急速拡大装置で上顎を拡大にすることによる独自の考えがうたわれており、装置の使用が大前提になっています。検査・診断をする前から急速拡大装置の使用が決まっているのです。不正咬合の原因を考えた結果の処方ではないことは、このことからも明らかです。

原因にアプローチするためには、まず資料を採り分析する。その結果として問題点が判明し、そこを改善すべく必要な装置が処方されるのが普通です。装置は最後に決まるものであり、原因によっては装置の種類も違うはずです。

最初から急速拡大装置ありきの治療が、いかにトンチンカンかお分かりいただけただろうか。ただ、彼らなりの拡大の理由はある。「今の子どもは顎が発達していない」と言うのです。これも根拠のない話で、この点については 85話 顎が発達しない? を参照してください。

以下に、反対咬合症例を6例示します。

同じカテゴリーとしての反対咬合であっても、原因が異なれば治療法も使用する矯正装置も違います。なお、顔の正面・側面の写真はブログでは掲載しませが、私の手元にはあります。

【症例1】

初診 8才 男子

主な原因:上顎骨の後方位

装  置:上顎前方位牽引装置

反対咬合の改善

【症例2】

初診 8才 男子

主な原因:上顎前歯の傾斜

装  置:ライトワイヤー 

反対咬合の改善

【症例3】

初診 8才 男子

主な原因:上顎前歯の傾斜、下顎骨の前方位

装  置:ライトワイヤー、チンキャップ

反対咬合の改善

【症例4】

初診 7才 男子

主な原因:下顎骨の過成長

装  置:上顎前方牽引装置

反対咬合の改善

【症例5】

初診 10才 男子

主な原因:上顎前歯の傾斜、下顎骨の前方位

装  置:ライトワイヤー、チンキャップ

反対咬合の改善

【症例6】

初診 9才 男子

主な原因:下顎骨の過成長

装  置:上顎前方牽引装置

反対咬合の改善

これらの6症例が反対咬合の改善に要した期間は、各症例で差はあるものの2~10ヶ月でした。原因にアプローチした効率的な治療は、子どもの負担を最小限にします。

下図は症例1と6の頭部エックス線規格写真の模式図です。

黒が平均値、赤が本人。

       症例1                症例6

症例1の反対咬合の主な原因は上顎骨後方位あるいは劣成長(距離計測が必要)。

症例6の反対咬合の主な原因は下顎の前方位あるいは過成長(距離計測が必要)。

この原因を解決する装置を考えるのが診断です。

模型分析の結果は全ての症例において、上顎が狭いという計測値は示されなかったので、急速拡大装置を使用する必要はありません。

不正咬合の種類に関係なく、全ての症例で急速拡大装置を使用する治療方法について考えてみます。

治療の必要がない正常な顎を、独自の解釈で拡大していいのか。

将来の凸凹を予防する名目で、狭くない顎を拡大していいのか。

顔の造りが変わるほど、極端な拡大をしていいのか。

急速拡大装置の名誉のために付け加えておきます。

急速拡大装置が悪いのではなく、誤った使い方をする歯科医師が悪いのです。

知識も技術もない歯科医師が、急速拡大装置を乱用する危うさ。

問われているのはモラルです。

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